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前例がないことを進めるには────音威子府村 遠藤貴幸村長インタビュー

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「前例がないこと」を前に進める方法がわからない。そんな仕事の悩みをもっている方もいるのではないでしょうか。
今回のAgendは、北海道で最も小さな村・音威子府で舵を取る自治体トップ(村長)の遠藤さんにインタビューしました。

住民・議会・役場・道庁や国との関係づくり、反対意見の受け止め方、「前例がないこと」を進めるために遠藤さんが大切にしているコミュニケーションの勘所は何か、事細かにお話いただいています。

きっと、「前例がないこと」を前に進めるヒントがあると思います。どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。

遠藤貴幸


遠藤 貴幸

音威子府村 村長。
北海道中川郡中川町出身。上川北部消防事務組合音威子府消防支署長を経て、2023年の統一地方選挙の音威子府村長選に出馬、音威子府村長に就任。

柴田史郎


柴田 史郎

2011年に面白法人カヤックに入社。人事として10年経験を積み、執行役員管理本部長を経て、現在は面白法人カヤックのグループ会社で札幌にある株式会社メガ・コミュニケーションズの代表取締役。 今回は遠藤村長をAgendに紹介した経緯があり同席。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

北海道で一番小さな村、音威子府(おといねっぷ)

北海道の音威子府村(おといねっぷむら)で、村長をやっている遠藤といいます。
音威子府は、旭川市と稚内市の間くらいにある地域です。

遠藤貴幸

フジイユウジ

面白法人カヤックの柴田さんを前にインタビューしたつながりから、遠藤村長を紹介いただきました。よろしくお願いします。
柴田さんは、音威子府の課題解決に取り組んでるんですよね?

カヤックの柴田です。
私がというか、面白法人グループとして国の制度を通じ、さまざまな地域に社員を派遣して地域課題の解決や活性化に取り組む事業をやっているんですね。
音威子府村にもカヤックの社員が派遣されて、住んでいます。

柴田史郎

音威子府村は、北海道で一番小さな村で人口600人くらいです。
2024年から10年で人口を400人増やして、村民1,000人を目指す「音威子府村1,000人プロジェクト」を始めたんですよ。
柴田さんやカヤックの人たちにそこを手伝ってもらってます。

遠藤貴幸

人口を600人から1,000人にしようっていうのは、小さな自治体からすると、とんでもなく壮大な計画でして (笑)
実際には人口減少しているし、今から着手すると30年ぐらいかかる計算になっちゃうんで。
そもそも移住者を受け入れたくても住宅がないし、まずそこから考えましょうという話を村長と進めています。

柴田史郎

フジイユウジ

ダイナミックな構想 (笑)

音威子府には、通称「おと高」っていう村立の美術工芸高校があって、全国から生徒が入学してくるような人気がある高校なんです。
寮生活をする高校生が村民なんで、住民の2割くらい10代なんですよ。

遠藤貴幸

いまは、若い人が活躍できる産業や雇用の場が少ないから、卒業後も残ってくれるかというと難しいところなんですけど。
おと高では、ただ「作る」だけで終わらず、マーケティングやブランディングの学習もやるようにしています。

遠藤貴幸

カヤックの人材を招き入れるのもそうだけど、遠藤さんは自治体の首長っぽいところがなくて、いきなり「1,000人プロジェクト」を立ち上げるとか、ベンチャーっぽいんですよ。
例えば、「道の駅」のあり方を検討して、プロポーザルを実施して、コンビニエンスストアが運営として選定されたというのがあるんですが。
そこでは、普段は在庫として売っているものを防災備蓄にもする防災拠点を作るという、他にはないアイデアを実現していたりもします。

柴田史郎

フジイユウジ

コンビニの在庫を防災備蓄として使うの、おもしろ〜

自治体って、災害時のために備蓄品を大量に持つ必要があるんですけど、大体3年に1回ぜんぶ入れ替えするんですよね。お金もかかるし、エコじゃない。
そこに通常は商品として循環してる生活用品や食品なんかを災害時の備蓄品として使うっていうご提案を受けて、双方協議の中でこのスキームができあがったんですよね。
コンビニは物流網が確立されているのが大きなメリットなんですよね。

遠藤貴幸

もともとは、国の補助金制度があって、それを道の駅に使おうとしていたらしいんですね。
でも、制度のルールとして地域産品のスペースの部分にしか使えなくて、店舗部分には使えないということがわかって。

柴田史郎

でも、そこで「コンビニやドラッグストアみたいな小売業を防災関連施設にできるなら、この制度も使えるし、村の防災拠点にもなるので一石二鳥じゃないか」ってなったんですよね。
災害発生時に避難所として使えるようにしたことで、全てのスペースが国の制度の対象になって、資金調達して実現ができたんです。

遠藤貴幸

遠藤さんのなにが面白いかっていうと、アセット(手持ちの資源)がない中でエフェクチュエーション的に自治体の運営をやっているところなんですよ。

柴田史郎

エフェクチュエーション:
成功する起業家に共通する「どう思考して、どう行動したか」を整理・体系化したもの。

綿密な計画で進めるのではなく、手持ちの資源を活用して素早く行動し、その結果から次の選択肢を広げていくという内容。前例がない、不確実性の高い状況に対応するための方法論。

フジイユウジ

なるほど、資金調達と事業を両立させていて、起業家っぽい (笑)
首長が、そういう立ち回りをしているというのが興味深いですね。

前例がないから、という反対意見をなくしていく。

フジイユウジ

ものを知らなくて本当に恐縮なんですが、村長って他の自治体のトップと同じ権限なんですか?

自治体の首長なんで、市長なんかと基本的に権限は同じですね。

遠藤貴幸

フジイユウジ

ついに Agend も自治体のトップにインタビューするメディアになったな……という謎の感慨がありますね (笑)
いつも、ぼくらは民間の事業会社やスタートアップ企業のコミュニケーションを記事にしてるんですけど、行政や政治においてのコミュニケーションについてお話いただけると嬉しいです。

行政の職員、公務員はとにかく企画段階から100%のものを求めすぎてしまう感じがするんですよね。
NTTドコモと一緒になって、村民のスマホ普及率を100%に持っていく「住民スマホ普及率100%プロジェクト」と、行政手続きを役所にこないで完結させる「行かない窓口プロジェクト」っていうのをやったんです。
それも、100%になるはずがないって否定から入られました(笑)

遠藤貴幸

フジイユウジ

えー、「行かない窓口プロジェクト」ってめっちゃいいプロジェクトですね〜
先進的な取り組みをやってるんだなあ。
まあ、そんなふうに反対されることがあるのは想像できますけど、チャレンジして損はない施策な気がしますけどねえ。

映画の撮影をしたいという企業からの相談があっても、役所でその話をしてみると「本当に成功するのか保証がない」、「どんな映画をつくるのか計画を出してくれ」って話になるわけです。

遠藤貴幸

そんなものは音威子府を取材や調査してもらって、それから作るわけじゃないですか。

遠藤貴幸

フジイユウジ

それはそうでしょうね。
取材してもらってからじゃないと、なにを作るのか決められないですもんね。

そうでしょう?
それなのに「調査済みじゃないなら、良いか悪いかも言えないし、むしろ反対です」みたいなことを言われるのは役場の中では結構あります。
気持ちはわかるけど民間なら競争があるから、こうはならない…

遠藤貴幸

フジイユウジ

民間でも、大企業か中小企業か問わず、会社によってそういう意味わからん反対はありますよ (笑)

あはははは、たしかに大企業の人たちと会議していたときに「ウチより動きが良いですね」って言われたことあります (笑)

遠藤貴幸

フジイユウジ

「良いか悪いかわからないから、反対」だと、新しいことをなにもできなくなりますよねえ。
なにかを変えていくことより、安定して住民サービスすることが優先されるお仕事だから、そうなるのもある程度は仕方ないのかもしれませんけど……。

村を良くしていくためには行政職員のマインドも変わらないといけない。職員には、「根拠の提示も代替案もなくアイデアを否定しないでください」ってことを伝えています。
それは僕だけにじゃなく、どんな職員の意見に対してもです。
前に進めようとしているときに根拠なく水を差すようなことをしていたら、何も変わらないし、良い意見が消されていきます。
根拠もなく否定するだけなら、それはハッキリ言って誹謗中傷なんですよ。
だからそれはやめましょうって言ってます。

遠藤貴幸

フジイユウジ

おー、良い話ですね。
根拠があって否定してるならともかく、重箱の隅をつつくような理由しかなかったり、「よくわからないから」という理由で否定から入っちゃうと物事が進まない。

さっきした道の駅も、役場の中からも外からも反対する人が当初は、めちゃくちゃ出たんですよ。
地元業者から運営が切り替わるって点は賛否あっても仕方ないんですけど、「やったことがないから」という反対理由も多いんですよね。
他の自治体で事例がなければ、ともかく「前例がないから無理です」って言われ続ける。
他の自治体でやってることは通るんですけど。

遠藤貴幸

フジイユウジ

前例主義って、本当にあるんだ……

ありますよ!
あります、あります!!!!
他の自治体でやったことないとか、国や道庁からお墨付きがないものは「交渉してみよう」とか「やってみよう」って話するだけで、反対されますね。

遠藤貴幸

昨年、職員の夏休みを3日から5日に増やしたんですけど、そのときも「他の自治体はやっていないことなので無理です」と反対されて……。

遠藤貴幸

フジイユウジ

ええええ、そんな反対の理由あります?!?!

協力しあって仕事さえ回せるようにしていれば、追加でお金がかかるわけじゃないから、しっかり休んでリフレッシュして仕事に精を出してもらえたらいいじゃないですか。
やっぱり行政は税金でやってますから、村の財政に大きな損失を出してしまうような失敗だけはしてはいけないと思いますけど、そういう大きな損失を出すような話ではないんだから。
お金の損失が含まれない失敗は、人や組織にとって経験という財産になりますけど、なにもしなかったらゼロというよりマイナスです。

遠藤貴幸

フジイユウジ

やっぱり、発想が起業家っぽいですね (笑)

チャレンジしてみるとか、試してみるなんてこと、僕や職員の努力とかアイデアでどうにかなることなら、やってみればいいじゃないですか。
頓挫してもいいし、何度チャレンジしてもいいじゃんって思うんですけどね
でも、やっぱり反対されることからスタートしますね(笑)

遠藤貴幸

物事がしっかり決まる前に意見を聞きに行く。

フジイユウジ

パワフル首長って感じのエピソードをお聞きしてきましたけど、実際のところそういう反対意見の調整って、どうするんですか?
こういうのって、無理やり押し切っても進まないですよね?

村長がなんでも決められるわけじゃないから、内部とでも外部とでも、各所とめちゃくちゃ対話と調整ですよ。
それと、自治体がやる事業全般は議会を通さないと進められないので、議員さんとの協議も大切ですね。
こうやってメディアで取り上げていただくと、僕が全部やっているように聞こえるかもですが、実際は自分ひとりでは何もできないですからね。
内部もそうですし、外部の方々の理解と協力が最も大事です。それも常にチームで活動していた消防士としての経験が大きいからかもしれません。

遠藤貴幸

フジイユウジ

おっ、議員さんとの協議。
急に政治家っぼい話ですね (笑)

村の職員は、公務員らしく100%しっかり物事が決まるまでは、「未確定なことだから」と、情報を出さないようにしていたんですよね。
議員さんたちに対しても、バッチリ外枠が固まるまでは情報を出すことをしてこなかったんです。

遠藤貴幸

フジイユウジ

あーーーーー
これは民間の企業でもよく聞きますね。
しっかり固めてしまってから伝えることで、逆にまとまらなくなるやつじゃないですか?

人間関係というか、コミュニケーション全般に言えることだと思うんですけど、物事が進むか進まないかって、「聞いてなかった」とか「考えてもなかったことを急に言われた」ということで決まったりするじゃないですか。
だから、僕はそこはなるべく早期に協議した方がいいと思うんですね。

遠藤貴幸

フジイユウジ

いい話ですね、これは。
まとまった大量の情報を出すのではなくて、生煮えのうちから「頭出し」した方が相手の理解と対話ができるようになるやつ。

全部が固まってから見せたら反対されるようなことでも、「ちょっと相談あるんすけど」とか「ちょっと飲みに行きませんか」って言って、相談するんですよ。
そういう場で「議員さんたちみんな反対するかもしれないですけど…」みたいに相談をしたら、ありがたいことに「俺はそれいいと思うぞ」って理解を示してくれたりします。

遠藤貴幸

そうなってくると、こっちが「でも、他の議員さんたちにわかってもらえますかね〜?」て言ったら、「俺がちゃんとまとめとくから」って言ってもらえたりもするんですよね。

遠藤貴幸

フジイユウジ

あなたに相談したいって態度で持っていくことで、味方になってくれたり、相手が気にするポイントが事前にわかるの最高ですね〜
その段階で、「え、それはこういう懸念があるよね」みたいなことを言ってくれれば、「じゃあこれ進める時はそこをきっちりしてから来ますね」って言っておくと、まとまっちゃうわけですよね。

そう。全部を固めてから反対されたら進まないけれども、この時点で意見をもらえると進むんですよね。
「これって僕の夢っていうか、ただの構想ですよ」って、本当にアイデア段階で言っておくこともあります。
反対意見が出た場合でも「その部分を解消できたら、やること自体はそんなまずくないですか?」って聞いてみると「それだったら、いいんじゃない」とかって言ってもらえる。

遠藤貴幸

フジイユウジ

仕事のコミュニケーションとして一番必要なやつだ。
個別の意見は違ったとしても、議員さんたちも村を良くしたいってところは一緒だろうから、そういう対話が大事なんでしょうねえ。

とにかく対話ですね。
すべてをビジネスライクにこなしてしまわず、その人との関係だったり、調和だったり、そういったものを築いていくようにしてます。
対話を重視すると自分にはない面白い発想や視点をたくさんもらえるから、アイデアがどんどん洗練されていくじゃないですか。
これは柴田さんやカヤックのメンバーから”ブレスト”のやり方を学んだおかげだったりします。

遠藤貴幸

前例がないことをやるためには、正論を作り込むより相手と話し合うこと。

結局、全ては人と人の繋がりと信頼関係だと思うんですよ。
だから、先輩ムーブと後輩ムーブを相手に合わせてめちゃくちゃ使い分けてたりしますしね(笑)

遠藤貴幸

フジイユウジ

相手や話題によって先輩ムーブと後輩ムーブを使いわけられると、相手の懐に入りやすいでしょうねえ。
エフェクチュエーション的な首長として紹介されたから、パワフルで豪腕な方なのかなーって思っていたんですが、めちゃくちゃ丁寧なコミュニケーションスタイルなんですね〜

パワフルで豪腕って言ってもらえるのは、僕がもともと消防職員だったからでしょうね。
消防職員って、現場に出たら「もう無理」って投げ捨てることできないんですよ。命かかってるし、無理でも何とかしないとダメなんですよね。

企画が手詰まりの状況のときも、何とかしないとって感覚があるのは、そういう体験をしているからだと思います。

遠藤貴幸

フジイユウジ

できない理由よりも、できる方法を探す力があるんだろうなってのが伝わってきます。エフェクチュエーション的なところは、そこで培われたんでしょうね。
一方で、物事を進めるためにも相手の気持ちを大切にしたコミュニケーションを大事にされているんだなってのが印象的でした。

仕事だけじゃなく普段の人間関係上での話もそうなんですけど、正論を突きつけるよりもお互いが話し合うことが大事だと思うんですよ。
もちろん正論で話さないとダメな場合もあるんですけど、ほとんどの場合は正論を突きつけて片付けちゃおうとしても相手の理解って得られないじゃないですか。

遠藤貴幸

フジイユウジ

中身が正論であるかは大切だけど、相手が理解しやすい形で話しているかが何よりも重要ってことですね。
正論突きつけマンの僕としては刺さるな〜

多くの場合は、正論を突きつけられる相手から見たら、自分のことを考えてもらってないって印象に映ると思うんですよね。

遠藤貴幸

フジイユウジ

そのままゴリゴリ押し進めようとすると相手からは反発されてしまうし、正論をぶつけるよりも相手の気持ちを考えて、ちゃんと対話と理解を求めるスタイルでコミュニケーションしてるんですね。

内容を深く理解している相手と話すなら、もちろん正論でいいんですけど。
その物事をこれまで考えてきた側と違って、相手は初めて聞きましたみたいな人だから、良さは分からない。
だから、正論じゃなく、アイデア段階からちょっとずつ伝えてみたりするんですよね。

遠藤貴幸

まとめ: 「前例がないこと」の進め方

新しいチャレンジを進めながらも、対話を大切にしている遠藤さんのコミュニケーションの話がお聞きできたインタビューでした。特に、「前例がないこと」を進めるためのコミュニケーションスタイルは、企業で仕事をする人たちにも役に立つのではないでしょうか。

  • 根拠なき否定はNG。否定するなら根拠や代替案とセット、という文化を浸透させる。
  • 完成前に固めない。生煮えの段階で頭出しや個別相談を回し、懸念と味方を先に把握する。
  • 相談の場づくりはカジュアルに「ちょっと相談があるんすけど/飲みに行きませんか」で意見をもらう。
  • 正論の押し付けより対話。相手は”ほぼ初見”だから正論をそのまま伝えても飲み込みにくい。

音威子府村 公式Webサイト

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遠藤貴幸村長 個人インスタグラム


(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年8月

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